脚本家・演出家 三谷幸喜氏
ご覧になられている方も多いのではないでしょうか。2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」。後世幸村としてその名をはせる真田信繁とその父や兄を含めた真田一族が戦国時代を生きる様が俳優陣の名演と三谷氏オリジナルの脚本でいきいきと描かれている本作。三谷氏が大河ドラマの脚本を手掛けるのはこれが2度目ですが、これまで手掛けてきたヒット作はドラマや舞台、映画やショートフィルムなどジャンルを問わず多岐にわたります。
三谷氏はなぜヒット作を生み出せるのか、三谷ファンに聞けばその理由は五万とあるのでしょうがファンのみならず見る人を笑わせ泣かせる三谷ワールドの魅力とは何なのでしょうか。
「真田丸」の制作にあたって三谷氏はこう述べています。三谷氏曰く「自身が描きたくなるのは勝者ではなく敗者で何かを成し遂げられなかった人たち。また真田丸でいえば当時多かった名武将を父にもつ「二代目」の葛藤を描きたかった」といいます。成功者の輝かしい勝利や栄光、勧善懲悪やハッピーエンドという一面的なわかりやすい物語ではなく、三谷氏が公言するとおりその魅力は登場人物の「人間性」に凝縮されているのではないでしょうか。
人を描くということ。名の知れた英雄も成功者を支えた右腕も名もなき敗者も、その時代を生きた生身の人間だったというリアリティを三谷氏はそのキャラクターづくりや台詞によって鮮やかに生々しく表現することに強烈な拘りをもって徹底した下調べをし構成を練り上げているのでしょう。
「考える葦」で有名なパスカルの言葉に「心には理性ではわからない理由がある」という名言があります。人は最終的には理性ではなく心で動くということを示唆しているわけですが、三谷氏の作品には心を動かす何かがあります。それは登場する人物の圧倒的な魅力であり、その魅力は教科書や偉人伝やおとぎ話では登場しない完璧ではない不完全さ、悩みも怠惰も失敗も含めた人間臭いリアリティをもって形づくられているのではないでしょうか。あるある!という場面やこんな人いるよね!というどんな人間にも通じる人間らしさ。そのリアリティの追求こそ三谷ワールドの魅力の源泉なのかもしれません。
また「真田丸」でいえば人間性というリアリティと共にその時代設定も、更に私たちの心を動かすリアルに繋がっているのかもしれません。戦国時代後期という激しい時代の潮目において、名の知れた戦国武将も現代の私たちと同じ一人の人間であり、そんな人々が「昨日の友は今日の敵」という時代を生き抜くということがどういうことだったのか。その時勢のカオスの中で、もがき苦しみながらも自分たちの信じた道を生きる姿は現代の変わりゆく時勢とリンクし、見る人によりリアリティを与え心を動かしているのかもしれません。
「人を動かす」とはよくいいますが、皆さんは仕事でプライベートで人の心を動かそうとする時にどんな心がけをしていますか。三谷作品の魅力にそのヒントがあるかもしれません。