「古くならない新しさ」近代日本絵師 伊藤若冲
美術に関心のある方は行かれましたでしょうか、生誕300年記念 若冲展(http://www.tobikan.jp/exhibition/h28_jakuchu.html)。約1ヶ月間開催していた同展覧会。江戸時代を代表する絵師、若冲の初期から晩年の作品が一堂に会するということで前評判通り最終日まで長蛇の列が絶えなかったといいます。多くの人を惹きつける若冲の画力、画業の魅力とは何なのでしょうか。
人は若冲の絵の魅力をその緻密さ、躍動感、魔術とまでいわれる技法だといいます。孔雀の幾重にも重なる透き通るような羽を超絶的な筆使いと白の濃淡で描き上げる驚異的な緻密さ、代表作に多く登場する雄鶏をとれば鶏冠の感触やその脚力や鳴き声までも伝わるような躍動感、肉眼では見えない箇所にも関わらずそこに更に細かすぎる技巧を凝らす狂気的なテクニック。若冲専門家に言わせれば挙げればキリがないほどその魅力は尽きないのでしょう。でもそれは歴史に名を残す他の絵師や画家も同じこと。
若冲の絵が今あらためて注目を集め人気を博した理由、それは「今なお新しいこと、現代に通じるイノベーション精神」なのではないでしょうか。
たとえば、その飽くなき探究心。
江戸時代、限られた色彩しか揃わない中でリアルな色を表現すべく色を重ねたり、表からだけでなく絵絹の裏からも色を入れてみたり。
通常絵を描く台紙は白かベージュのところを完成時に奥行きや遠近感を出すために暗色のものを使用したり。
日本画の域を超えデジタル画面のように盤の目に色づけをしたタイル画を創ってみたり。
そして、その新たな視点。
若冲の絵に描かれているのは、主に動植物や昆虫など誰もが日常で目にする世界。ただ彼の絵の中では、その誰の目にも映っているはずの世界が違って見えるのです。確かに花びらは一枚一枚異なる色だよな、鳥のお腹はこんな毛並みなんだ、蛙はこの動きをするな、という発見。その視点は被写体への愛を感じるほど。夢中で描写する若冲の姿が想像できるからこそ、その視点に惹かれるのかもしれません。
若冲は「何千年後に自分の絵は評価される」という言葉を残したといいます。それは当時、若冲自身が誰も気づかないことに着目し、誰も思いつかないことに挑戦し、誰もやらないことをしていたという自負があったからこそ言えたのではないでしょうか。
新しいものもすぐに古くなってしまう現在、一千年先まで見通して新たなものを創造せよというのは難しいことでしょう。ただいつの時代でも、自分にとっての好きを追求し拘りを当たり前として究極まで高めることができたなら、それは今も未来も他の人には新しいものになりえるのかもしれません。若冲にはなれずとも、人を惹きつける新しいものを生み出す姿勢を若冲の絵は教えてくれる気がします。視点を変えれば、新しさはそこかしこに転がっている。オフィスの隣の同僚が最近ハマっているもの、メンバーの趣味、上司の拘り、普段の日常の中から新しさは見いだせるのではないでしょうか。